tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

所得・資産と消費行動:格差社会化と消費支出

2016年06月16日 11時35分35秒 | 経済
所得・資産と消費行動:格差社会化と消費支出
 前回、1ドル80円から 120円への円安で、「日本人の働きの成果が正当な価格で評価されるようになった」と書きました。
 日本製の品質への信頼は高い、しかしあまり価格が高いと手が出ません。過度の円高が是正されて、外国から見て価格が適正になれば、欲しい人は沢山います。

 円安で海外から日本への旅行代金も安くなれば、観光客や爆買いも起こります。
 アベノミクス第1の矢、円安政策は大成功でした。輸出産業は売り上げを伸ばし、加えて為替差益を満喫することになりました。

 こうした思わざる利得はその時だけのもので、またもし円高になれば消えます。思慮深い日本の企業はこうした利得は分配してしまわずに、 当面様子を見ます。(現状円レートは104円がらみになり、アベノミクスによる円安効果の半分近くが消えようとしています。)

 企業が儲かればトリクルダウンでみんなが潤う、というのは、健全な成長が安定しているときには起こりますが、いつでも起こるというわけではありません。

 もう一つ問題がありました。それは「失われた20余年」の中で、企業はあらゆるコストダウンを強いられてきました、中でも、日本経済の最大のコストである人件費(GDPのほぼ7割)削減のために、企業は非正規雇用を大幅に増やして、平均賃金を下げてきました。
 政府のPRを必ずしも信用できない企業は、この是正( 非正規の正規化)にも慎重でした。

 この背後には、長期不況の中での労使関係の変化(対話の希薄化)もあったように思います。マスコミは春闘の終焉と書きました。そして、本格的な的な労使対話、「春闘」の復活も遅れています。

 さらに加えて、円安によって状況が一変したのが株式市況です。政府のGPICの資産の株式運用を増やす決定は象徴的です。
 しかし株価上昇の恩恵を受けるのは、どちらかというと富裕層です。
 さらにもう1つ、低金利があります。これは円安と裏腹です。庶民の貯蓄に利息が付きません。

 これらはすべて所得格差、資産格差の拡大の要因です。さらに加えれば、 累進課税は大幅に緩和されたままです。

 こうして発生した格差社会化は、富裕層のキャピタルゲインの拡大(蓄積の増加)と庶民層の生活防衛の姿勢を強めることになります。
 結果として現れるのは、 消費性向の低下です。これは繰り返し指摘していることです。

 つまり異次元金融緩和による円高で救われた日本経済の中で起こったことは、格差社会化の進展で、それが消費性向の低下をもたらしているのです。
 格差社会は、おカネのない人も生み出しますし、おカネがあっても使わないという行動も助長します。特に日本人の堅実(先憂後楽:キリギリス型でないアリ型の思考)な行動にも注目すべきです。

 すでに ピケティが指摘していますように、資本主義社会は放置すれば格差社会化が進むようで、特に今日のような、金融政策依存、マネー資本主義全盛の時代には、この傾向は一層顕著なようです。

 アベノミクスは、まさに、この陥穽に嵌ってしまったのでしょう。この問題はさらに、「将来不安」、「政府不信」を伴って、深刻化そうとしているように見えます。

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